「ドベネックの樽」の話

 お風呂のお湯をためる時、栓を抜いたままでやろうとする人はいませんよね?だって、上から注いだお湯が、そのまま下に流れてしまいますから。小さい子でもわかる、あたりまえの話です。
 とはいえ、そんなあたりまえの話なんですが、我々の身の回りでも知らぬ間にやってしまっていたりするのです。

 ということで、今日は『ドベネックの樽』の話を紹介しようと思います。
 一般的には聞きなれない言葉かもしれません。私も、品質管理に携わった中で学んだことです。

 『ドベネックの樽』という考え方は、植物の育成栽培に由来しています。
 植物が健全に育つためには、必要な養分が完全に供給されなければなりません。植物の生長に必要な成分は、共通して16種類程度と言われていますが、そのいずれかの養分のうち、必要量に対して最も供給できていない養分を「最小養分」と呼びます。
 この最小養分に足を引っ張られてしまうために、他の養分がいくら豊富であっても、植物はスムーズに生長しなくなってしまいます。

 食品工場全体を、ウィスキーやワインを溜めておく樽に置き換えて考えてみます。
 樽は、細長い木の胴板がつなぎ合わさってできていますよね?この細長い木の胴板を、「製造工程ごとの管理状態」に例えることができます。
 樽に貯められる水の量は、樽を構成する胴板の最も低い位置で決まります。それぞれの胴板が同じ長さなら良いのですが、一つでも他より短い(低い)胴板があったとすると、そこから水が漏れ出してしまいます。
 この水の量を、安全の度合い、あるいは衛生管理の度合いと捉えてください。つまり、製造工程の中で管理がゆるい(あるいはできていない)部分が一つでもあれば、そこから汚染がはじまってしまうということ。

 また、「箍が緩む」「箍が外れる」というフレーズがあるように、胴板を締め付ける箍(タガ)が緩んでしまっていても、水は貯まりません。タガを締めるのは、経営者であるあなたの仕事になります。※箍とは金属や竹で出来た輪のこと

 ですから、あなたの工場で、どの部門が品質的に最も弱い部分なのかを考えてみてください。そこを少し強くするだけで、樽の中に水が貯まるようになります。
 よくある方法として、品質管理の外部専門家(コンサル)を雇用することもありますが、それは樽を構成する胴板の一枚だけを大きく(長く)しているに過ぎません。
 繰り返しますが、貯められる水の量は、胴板の高さが最も低いところで決まってしまいます。品質管理のレベルを向上させるには、弱い部分を立て直す必要があります。

 胴板の一部に穴が開いていたとすると、水をどれだけ充分に注ぎ込んでも、たった一カ所のその穴から漏れ出していきます。この水漏れ箇所を、大きな事故クレームが発生する前に発見することがクレームを防ぐポイントになります。
 事故が起きてから大騒ぎして、トラブルを解決することは、ある意味誰でもできるのです。外部コンサルも、大きなトラブルが起きてから、指導することは容易な事でしょう。
 しかしながら、未然に防ぐためにかかるコストと、事故が発生してから火消しにかかるコストでは、どちらが効果的でしょうか?コストは、お金だけではありません。時間や周囲からの信頼(ブランド)といった、目に言えないものまで含まれます。

 日常的に、現場で水漏れ箇所を指摘できるようになれば、クレームの発生率は更に減るはずです。従業員同士で小さな問題点を発見し、解決策が提案できる企業文化を醸成することができれば、必然的に外部で発生するクレームや事故は最小限にとどまるでしょう。

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